公開日 2025.12.06 更新日 2026.01.22

退職代行で訴えられる?判例から損害賠償請求リスクの回避方法を学ぶ

退職代行を利用すると、会社と直接やり取りすることなくスムーズに退職できます。
しかし、不適切な辞め方をしてしまうと、退職後に損害賠償を請求されるおそれがあります。
退職代行の安全な利用方法を把握し、リスクの軽減に努めましょう。

本記事では、退職代行の利用後に訴えられる可能性がある行為を、具体例をあげて解説します。実際に損害賠償請求が認められた過去の判例もまとめていますので、安心・安全に退職したい方は参考にしてください。

退職代行を利用しただけで訴えられることはない

退職代行を利用することは労働者の自由であり、ただちに損害賠償請求が認められる理由にはなりません。
しかし中には、労働者への報復や嫌がらせを目的として、請求が認められるか否かを考慮せずに訴えを起こす会社も存在します。
万が一、会社から損害賠償請求の内容証明郵便が届いた場合は、放置せずに対応しなければなりません。

無用なトラブルを回避するためには、会社側に訴える隙を与えないことが大切です。
会社と交渉できる代行業者を選び、損害賠償請求を未然に防ぎましょう。

退職代行の利用後に訴えられる可能性があるケース

会社から訴えられるかどうかは、退職代行の利用に関係ありません。
労働者としての義務違反や不法行為があり、具体的な損害を与えた場合は損害賠償が認められることもあります。

危険性の高い行為の具体例は、以下のとおりです。

  • 長期間にわたって無断欠勤していた
  • 引継ぎを一切せず、会社に大きな損害を与えた
  • 契約期間の途中で一方的に退職した
  • 会社の名誉を毀損した
  • トラブルを起こして会社に大きな損害を与えた
  • 社費留学の直後に退職した
  • 会社の機密情報を流出させた
  • 退職時に多数の従業員を引き抜いた

それぞれ解説します。

長期間にわたって無断欠勤していた

2週間以上の無断欠勤は問題視されやすく、会社に訴えられる危険性が高まります。
一方的に出社を拒否されると業務が滞り、具体的な損害が生じやすくなるためです。
ただし、無断欠勤と損害の因果関係を立証できなければ、会社側の請求が認められる可能性は低いでしょう。

なお「2週間」が目安になる根拠の1つとして、労働基準監督署長の解雇予告除外認定があげられます。
本来、労働者を解雇する際は30日以上前に解雇の予告をしなければなりません。
しかし「労働者の責に帰すべき事由」がある場合は、労働基準監督署長の判断で予告なく解雇することが認められています。

「労働者の責に帰すべき事由」の一部を紹介します。

  • 原則として二週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
  • 出勤不良又は出欠常ならず、数回にわたって注意を受けても改めない場合

引用:解雇予告除外認定申請について|労働基準監督署

2週間を超えた無断欠勤は解雇予告除外事由に該当することから、損害賠償請求の判断基準として用いられる可能性があります。

引継ぎを一切せず、会社に大きな損害を与えた

仕事を途中で放棄し、一切の引継ぎをせずに辞めた場合は、損害賠償が認められることもあります。
とはいえ、労働者には引継ぎをして退職する法的義務がありません。

引継ぎの放棄に対して損害賠償請求が認められるのは、以下の条件にあてはまる場合に限定されます。

  • 引継ぎをしなかったことで、会社へ大きな損害を与えた
  • 引継ぎの放棄によって損害が生じたことを証明できる

実務上、引継ぎの有無と損害の因果関係を証明することは困難です。
仮に損害賠償請求の一部が認められたとしても、会社が十分な金額を回収できるとは限りません。

訴訟を提起するコストと会社側のメリットが見合わないため、実際に訴えられるケースは稀だといえます。

関連記事:退職代行を使えば引継ぎしないで辞められる?リスク回避の方法を解説

契約期間の途中で一方的に退職した

有期雇用契約の労働者は、原則として契約期間中の一方的な退職が認められていません。
期間途中の退職によって会社に大きな損害が生じれば、損害賠償を請求される可能性もあります。

ただし有期雇用期間中でも、以下の条件にあてはまる場合は契約の解除が可能です。

契約を解除できる事由

内容

やむを得ない事情がある

  • 賃金の不払いがあった
  • 病気やケガにより就労不能に陥ったなど

契約から1年以上経過している

有期雇用の期間が1年を超えており、現段階で契約初日から1年以上が経過している

上記の条件を満たさない労働者が退職する際は、交渉権限のある代行業者に依頼し、会社と合意を形成してもらう必要があります。

参考:民法第628条|e-Gov法令検索
参考:労働基準法附則第137条|e-Gov法令検索

会社の名誉を毀損した

名誉毀損とは、公然と事実を指摘して、他人の社会的評価を低下させることです。
刑法・民法によって、それぞれ以下のように禁止されています。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。


引用:刑法第230条|e-Gov法令検索

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


引用:民法第709条|e-Gov法令検索

会社の実名をあげてSNSなどで以下のような投稿を行うと、名誉毀損だとして損害賠償を請求される可能性があります。

  • 「上司がパワハラ」「不当人事だ」など悪口を吹聴する
  • 経営者個人の私生活を暴露する
  • 転職サイトに「ブラック企業だ」と書き込む

投稿内容が真実であっても、名誉毀損は成立することがあります。
会社に不満がある場合でも、安易な投稿は避けなければなりません。

トラブルを起こして会社に大きな損害を与えた

トラブルを起こして一方的に退職した場合は、損害賠償の責任を負う可能性があります。
具体的な事例は、以下のとおりです。

  • 勤務中に同僚へ暴力を振るい、ケガをさせた
  • 取引先との打ち合わせ直前に失踪し、受注していた業務が履行不能となった
  • 貸与品を返却せずに私物化した

ただし、会社側の訴えが認められるか否かはケースバイケースです。
労働者側に一方的な故意・過失があり、トラブルと損害の因果関係が証明された場合は、損害賠償リスクが高まります。

社費留学の直後に退職した

労働基準法では、労働者の不当な人身拘束を防止するため、退職時の違約金や損害賠償について事前に定めることを禁じています。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。


引用:労働基準法第16条|e-Gov法令検索

会社の経費で留学したとき「すぐに辞めたら損害賠償だ」と約束することは、事実上在職の強要となるため許されません。
一方で、実費の一部返還を求められる可能性はあります。

返還の必要性を判断する基本的な視点は「留学と業務の関連性」です。
業務の一環として会社が命じた留学は、原則として費用を返還する必要はありません。
しかし、労働者の自由意志で参加し、自己啓発の側面が強い留学の場合は、返還を求められる可能性が高まります。

会社の機密情報を流出させた

機密情報を漏洩させた場合は、以下のような刑事罰を受ける可能性があります。

窃盗罪

機密情報が記憶された媒体(パソコン・USBメモリなど)を盗んだ場合

背任罪

情報管理について個別具体的な任務を担っている事務処理者が、機密情報を持ち出した場合

不正競争防止法違反

不正な手段によって営業秘密を取得した場合

不正アクセス禁止法違反

他人のIDやパスワードを利用し、ネットワークへ不正に侵入した場合

上記に加え、会社との秘密保持契約違反に対して損害賠償も請求されます。
機密情報の流出は、損害の規模が大きくなりやすいため、とくに厳しく処罰されることが一般的です。

参考:刑法第235条|e-Gov法令検索
参考:刑法第247条|e-Gov法令検索
参考:不正競争防止法|e-Gov法令検索
参考:不正アクセス行為の禁止等に関する法律|e-Gov法令検索

退職時に多数の従業員を引き抜いた

労働者には「職業選択の自由」が保障されているため、従業員の引き抜きが必ずしも違法とは限りません。
ただし、悪質な方法で引き抜いたり、不正な手段を用いたりすれば、損害賠償を請求されるおそれがあります。

引き抜き行為に対する損害賠償請求が認められるかどうかは、以下のポイントで判断されます。

  • 重要な地位・役職にある社員を引き抜いている
  • 重要な地位・役職にある社員が、その立場を利用して引き抜きを行っている
  • 社会的相当性を欠く人数の社員を引き抜いている
  • 引き抜きが計画的で、悪質な行為を伴っている

一般的な勧誘と判断されるケースは、損害賠償の対象となりません。

退職後に会社の損害賠償請求が認められた判例

ここでは、退職した元従業員に対する損害賠償請求が認められた判例を紹介します。

  • ケイズインターナショナル事件
  • ラクソン等事件
  • 不正競争行為差止等請求事件
  • 競業行為差止等請求控訴事件

詳細を見ていきましょう。

ケイズインターナショナル事件

東京地方裁判所における、平成4年9月30日の判決です。
以下のように、引継ぎをせずに退職した元従業員に対し、会社側の損害賠償請求が認められました。

  • Y社は、A社と結んだ契約を履行するために、従業員Xを採用して配置した
  • Xが入社間もなく病欠し、結局退職したため、A社との契約は解約された
  • Yは、得られたはずの1,000万円の利益を失ったとして、Xに200万円を支払うよう求めた
  • しかし200万円が支払われなかったため、Yはその履行を求めて提訴した

東京地裁は、実損額がそれほど多額でないことや、労務管理に欠ける点があったことを指摘。
しかし、Xの対応にも問題があることなどを勘案し、70万円の支払いを命じました。

引継ぎを一切行わず、具体的な損害が出ている場合は、会社の損害賠償請求が認められることを示した事例です。

参考:ケイズインターナショナル事件|全国労働基準関係団体連合会

ラクソン等事件

東京地方裁判所における、平成3年2月25日の判決です。
以下のように、従業員を引き抜いて退職した元取締役に対して、会社の損害賠償請求が認められました。

  • 取締役兼営業部長のYは、X社の売上の約80%を占める部署を率いるなど、経営上極めて重要なポジションに就いていた
  • X社の将来に不安を感じたYは、同業他社であるZ社の役員と接触。X社の従業員らにZ社への移籍を了承させたうえ、X社の備品をZ社に持ち込んだ
  • Yは早速Z社の事務所で営業を開始したのち、従業員らにX社への退職届を郵送させた
  • X社はYの債務不履行や不法行為にもとづく損害賠償を、Z社の不法行為に対する損害賠償をそれぞれ請求した

Yの行為が計画的かつ背信的であったことや、社内で影響力のある地位だったことなどを考慮し、原告の請求が認められました。
請求額の1億円に対し、認められた金額は870万円であったことから、損害額の客観的な証明は困難であることが分かります。

参考:ラクソン等事件|全国労働基準関係団体連合会

不正競争行為差止等請求事件

大阪地裁における、平成25年4月11日の判決です。
以下のように、機密情報を持ち出した元従業員に対し、会社が損害賠償を請求しました。

  • X社の元従業員数名は、新会社(A社)の設立を計画していた者から誘いを受け、同業他社であるB社へ転職した
  • B社で地位を約束されていた元従業員は、退社直前にX社の顧客情報を大量にコピーして持ち出した
  • そののち、元従業員が代表取締役となりA社が設立され、B社の事業及びX社から持ち出した顧客情報を引き継いだ
  • X社は、A社・B社とその関係者、元従業員らに対し、顧客情報の使用差し止め及び損害賠償を請求した

本件は関与した企業や人物が多く、結果として1億円を超える賠償額が認定されました。
顧客情報の持ち出しは企業の利益に大きく影響し、悪質性も高いことから、厳しい判決が下される傾向です。

参考:不正競争行為差止等請求事件|裁判所

競業行為差止等請求控訴事件

知的財産高等裁判所における、平成29年9月13日の判決です。
以下のように、引継ぎを一切行わずに失踪した元従業員に対し、会社側の損害賠償請求が認められました。

  • プログラマーであるYは、X社と「契約期間終了後1年間は競業行為を行ってはならない」との条項を含む業務委託契約を結んでいた
  • Yは、X社の顧客先A社に納入するための開発データをUSBメモリに複製し、事務所から持ち出したのち、引継ぎを一切行わずに失踪した
  • 約3ヶ月後、YはA社とOEM関係にあった企業に就職した
  • X社はYに対し、同業他社でプログラマーとして勤務することの差し止め及び約6,000万円の損害賠償を請求した

裁判所は、開発データを不正に利用したことは否定しつつも、Yの債務不履行を認めて600万円の賠償を命じました。
本件では、引継ぎを行わなかったことに加え、競業避止義務違反も加味して賠償義務が認められています。

単に即日退職したことで訴えられるケースは少ないものの、退職時はできる限り誠実に対応することが重要だといえます。

参考:競業行為差止等請求控訴事件|裁判所

退職代行で訴えられるリスクを軽減する方法

退職代行を利用する際は、以下を押さえておくと安全な退職を実現しやすくなります。

  • 就業規則を確認しておく
  • 精神的な限界を迎えるまえに退職代行を利用する
  • 会社と交渉できるサービスを選ぶ

それぞれ見ていきましょう。

就業規則を確認しておく

会社が定めている就業規則に則って退職すれば、基本的に訴えられる心配はありません。
無用なトラブルを避けるためにも、あらかじめ就業規則をダウンロードしておきましょう。

なお、無期雇用労働者の場合は、法律上「2週間前」に退職を申し出ればよいとされています。
しかし、就業規則に合理的な理由があれば、民法よりも就業規則が優先されることもあります。

できる限り早く退職したい場合は、交渉権限のある代行業者を選び、退職日や有給消化の調整を依頼しましょう。

参考:退職の申出は2週間前までに|労働基準監督署

精神的な限界を迎えるまえに退職代行を利用する

仕事上のストレスを極限まで我慢すると、ある日突然出勤できなくなることがあります。
しかし、無断欠勤してしまうと労働者の立場が不利になりかねません。

退職代行業者を通じて、退職意思を通知したのちに有給休暇を消化できれば、無断欠勤にならずに実質的な即日退職が実現します。
精神的な限界を迎えるまえに代行業者を探し、準備を整えておくのがおすすめです。

会社と交渉できるサービスを選ぶ

労働者としての義務違反があり、かつ会社に与えた損害が立証されない限り、損害賠償請求が認められることはありません。
ただしリスク回避の観点では、そもそも訴えられないように対策を講じる必要があります。

労働組合や弁護士が運営する退職代行サービスを選べば、不当な要求をされにくくなるでしょう。
法的権限のある業者が交渉を代行することで、会社側は誠実に対応せざるを得なくなるためです。

裁判に発展してしまった場合は弁護士一択ですが、トラブルを予防する意味では労働組合への依頼も有効な選択肢になります。

退職代行の損害賠償請求についてよくある質問

退職代行を巡る訴訟提起に関して、よくある質問をまとめました。

  • 退職代行で損害賠償請求された場合の金額は?
  • 会社から訴えられて無視するとどうなる?

回答を見ていきましょう。

退職代行で損害賠償請求された場合の金額は?

会社に与えた損害の程度や、行為の悪質性などによって賠償額は変わります。
過去の裁判でも、認められた賠償額は70万円〜1億円以上と事例によって大きく差があります。

大口取引先からの失注や、機密情報漏洩による売上毀損などを招くと、賠償額は跳ね上がるでしょう。
労働者の義務に違反しないよう、できる限り誠実な対応を心がけることが、リスクの軽減につながります。

会社から訴えられて無視するとどうなる?

正規の手続きを経て損害賠償を請求された場合は、無視せず対応しなければなりません。
裁判所から届いた訴状を放置していると、労働者にとって不利な判決が下されるおそれもあります。

ただし通常は、訴えられるまえに会社から何らかのアクションがあるはずです。
訴訟を提起される前段階で、適切な交渉を重ねることが大切です。

初動が肝心になるため、退職代行の利用を検討している方は、慎重に依頼先を選択しましょう。

まとめ:訴えられるのが心配な方は慎重に退職代行サービスを選ぼう

退職代行の利用自体は、会社から損害賠償を請求される理由になりません。
ただし、社会通念上問題のある辞め方をすると、トラブルの火種になり得ます。
滞りなく退職手続きを進めるためには、会社と対等に交渉できる退職代行サービスを選ぶことが大切です。

会社から訴えられるのが心配な方は、合同労働組合運営の退職代行ガーディアンを検討してみてください。
25年を超える労働組合運営で培ったノウハウを活かし、会社の不当な要求に徹底対応します。
会社とのトラブルが予想される場合は、お気軽に無料LINE相談をご利用ください。

この記事の監修者

長谷川 義人

東京労働経済組合
労働組合代表

プロフィール

高校を3ヶ月で中退しフリーターとなる。その後、20歳で定時制高校に通い25歳で定時制大学を卒業。
Tech系ITベンチャー企業にてBtoB営業からキャリアをスタートし、独立して代表として経営まで幅広く経験。
現在は「令和ならではの労働問題解決」に取り組むため、労働組合法人東京労働経済組合の代表に就任。
適法運営を徹底する退職代行サービス「退職代行ガーディアン」を運営し、日本の退職問題の改善と人材の最適配置を支える新たな社会インフラの確立に取り組む。
違法な退職代行が横行する業界の健全化にも力を入れており、労働者が安心して「次の一歩」を踏み出せる社会の実現を目指している。

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