
労働者には職業選択の自由が保障されているため、会社が不当な圧力で退職を阻止することは認められません。
しかし、中には違法性の高い引き止めによってトラブルが発生するケースも見受けられます。
本記事では、違法な退職引き止めの具体例や法的根拠、しつこいときの対処法などを解説します。
会社側の本音や引き止めに遭いやすい人の特徴もまとめていますので、スムーズに退職したい方は参考にしてください。
正当な理由なく、労働者の退職申し出を一方的な拒否は違法です。
とくに悪質な場合は、以下のような脅しを伴うこともあります。
法的根拠とともに、会社の対応の問題点を見ていきましょう。
労働力人口が不足している現代では、人手不足に悩む企業が多く存在します。
上司から、以下のような理由で退職を拒否される方もいるでしょう。
しかし、組織の労働力が足りない原因は会社側にあり、労働者が責任を負うことではありません。
無期雇用労働者はいつでも退職を通知でき、2週間後に退職が成立します(民法627条1項)。
会社が退職届を受け取らない場合は、内容証明郵便で退職届を送付して問題ありません。
万が一「受理した覚えはない」と主張されても、退職意思を告げたことの証明になるため反論できます。
関連記事:退職届と退職願の違いとは?それぞれの特徴とスムーズな退職のコツ
退職を諦めてもらうために「退職金や今月分の給料を不支給とする」などと脅すブラック企業も存在します。
しかし、給与支払いは会社の義務であり、違反した場合は罰金刑が科されます(労働基準法24条・120条)。
さらに、受給要件を満たした労働者に退職金を支払うことも会社の義務です。
会社に退職金制度があるにもかかわらず、正当な理由なく支払いを拒否することは認められません。
万が一、実際に給与や退職金が支給されなかった場合でも、しかるべき対応を取ることで回収できます。
のちのトラブルを防ぐためには、退職を伝えるまえに準備を進めておくことが大切です。
業種や雇用形態にかかわらず、会社は要件を満たした労働者に対して有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条)。
会社に認められているのは、事業の正常な運営を妨げる場合に有給取得時季を変更できる「時季変更権」のみです。
ただし、労働者の退職希望日が定まっているときに時季変更権を行使すると、残日数を消化しきれない可能性があります。
実質的に有給の取得を拒むことと同義になるため、退職時は請求どおりに取得させることが原則です。
有給が余っているにもかかわらず「退職日までの日数は欠勤扱いにする」といわれた場合は、妥協せずに権利を主張しましょう。
場合によっては、労働基準監督署や専門家への相談も検討する必要があります。
関連記事:退職前に有休消化したい!よくあるトラブルを防ぐコツと対処法
退職時に受け取る「雇用保険被保険者離職票」は、基本手当(失業給付)を申請する際に必要な書類の1つです。
会社は、労働者からの請求に応じて離職票を交付しなければなりません(雇用保険法76条3項)。
離職票は、退職日から10〜14日程度で交付されることが一般的です。
請求しているにもかかわらず一向に発行してもらえない場合は、ハローワークに相談すると会社へ催促してくれます。
退職時に受け取るべき離職票以外の書類は、以下のとおりです。
離職票はハローワーク、源泉徴収票は税務署の管轄ですが、不交付に関しては労働基準監督署に相談することも可能です。
関連記事:退職給付金とは?種類や申請方法・受け取り方まで詳しく確認
退職を引き止めるために「今辞めるなら懲戒解雇にする」と脅す悪質な会社もあります。
しかし、会社が労働者を懲戒処分にするハードルは極めて高く、任意の退職を懲戒解雇はあり得ません。
懲戒解雇となると、退職金の不支給や失業手当の給付制限など、さまざまな不利益を被ります。
合理的な理由なく懲戒解雇として扱われた場合は、法的に争うことも検討しましょう。
ブラック企業に所属している方は、常にリスクヘッジを意識しておくことが大切です。
解雇と同様に「辞めるなら損害賠償請求だ」も、ブラック企業の脅し文句です。
退職の自由は権利であり、単に辞めただけで会社側の請求が認められることはありません。
ただし、会社に対する義務違反や不法行為によって具体的な損害を与えた場合は、損害賠償が認められる可能性もあります。
リスクの高い辞め方の具体例は、以下のとおりです。
労働者側に非がない場合に会社側の請求が認められることはないため、安易に応じないことが大切です。
関連記事:「退職代行 訴えられる」
違法性の高い引き止めに遭った場合は、法律にもとづき権利を主張しましょう。
以下の条件ごとに、主張の正当性を裏付ける根拠を解説します。
それぞれ見ていきましょう。
労働者には、退職の自由が保障されています。
期間の定めなく雇用されている労働者は、いつでも通知でき、2週間で終了します。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
本人が直接申し出る場合はもちろん、退職代行業者や親族などの第三者が通知する場合でも、上記のルールは有効です。
通知の証拠があれば、会社側の主張は法的効力なし。
口頭での申し出に対応してもらえない場合は、内容証明郵便で送付も有効です。
ただし、労働者が不利益を被ることのないよう、しかるべき手順を踏む必要があります。
関連記事:退職して会社に明日から行かないことは可能?注意点とおすすめの方法
契約社員やパートタイマーなどの有期雇用労働者は、期間満了時以外の退職が原則として認められません。
契約期間中に退職を申し出ても、拒否される可能性があります。
ただし、やむを得ない事由がある場合は、例外的に労働者の意思にもとづく退職が認められます(民法第628条)。
「やむを得ない事由」の具体例は、以下のとおりです。
退職事由が労働者の一方的な過失である場合、会社に対して損害賠償責任が生じるため注意しましょう。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
なお、雇用期間が1年を超えたら、期間途中でも退職可能です(労働基準法附則第137条)。
就業規則によって「1ヶ月前に通知することで退職できる」などと定められている場合、民法との矛盾が生じます。
このようなケースでは、原則として有利な規定が優先されます。
たとえば有期雇用労働者の場合、民法上は契約途中の退職が認められていませんが、就業規則の決まりに従って退職可能です。
無期雇用労働者の場合も同様に、通常は予告期間が短いほうの規定が適用されます。
仮に就業規則で「3ヶ月前」と定められていても、その規定は予告期間が長い規定は無効となる可能性が高いでしょう。
ただし、就業規則に合理的な理由があれば、特約によって民法よりも長い予告期間が設定されることもあり得る点に注意が必要です。
会社が退職を引き止める際、表向きの理由の裏にはさまざまな本音が隠れている。
以下の内容を理解すれば、交渉を円滑に進めやすくなるでしょう。
それぞれ解説します。
会社側は、退職者の業務を一時的にほかの社員に振り分けることで、生産性を維持しようとします。
しかし、振り分ける業務量や責任の重さに応じて、負担増大の影響は深刻化します。
既存社員の業務負担増は新たな退職者を生むことにつながりかねません。
また、重要なプロジェクトを担当していた労働者が退職すると、これまで可視化されていなかった業務が生じることもあります。
遅延に対するスケジュール調整や、取引先と関係性を維持するための配慮などが典型的です。
このような事態への回避意識が強くなるほど、違法性の高い引き止めにつながりやすくなります。
特定の上司が退職を引き止めている場合は、自身の人事評価への影響を気にしている可能性があります。
部下の育成やマネジメントが重視されるポジションにおいて、組織内の離職は評価の悪化につながりかねないためです。
とくに、以下のような状況に置かれている上司は、過剰な引き止めを行う可能性があります。
とはいえ、現代において「部下の退職は上司の管理能力不足が原因だ」という価値観は薄れつつあります。
古い体質の企業や、人材の流動性が低い業界では、このような引き止めの慣習が残っていることもあるため注意しましょう。
人材の採用・育成には多くの時間と費用がかかります。
社内の状況をよく理解し、十分な経験と技能を持つ労働者が退職することは、会社にとって多大な損失です。
中小企業が退職を引き止める裏には、以下のような本音が隠れていることもあります。
また、新人が戦力になるまでの生産性の低下も、規模の小さい企業にとっては無視できない問題です。
専門性の高い人材は引き止めに遭いやすいといえます。
1人の労働者の退職がきっかけで、ほかの社員が次々と辞めてしまうことがあります。
連鎖退職のパターンは、大きく以下の2つです。
| パターン | 特徴 |
|---|---|
| ドミノ倒し型 |
|
| 蟻の一穴型 |
|
周囲から慕われている労働者の場合は「自分も付いていきたい」と考えている社員を引き抜くおそれもあるでしょう。
過剰な引き止めは、連鎖退職や引き抜きを阻止する狙いがあるかもしれません。
退職を引き止められやすい立場にある方は、会社側の反応を予測し、先回りして準備を進めておきましょう。
引き止めに遭いやすい人の特徴は、以下のとおりです。
詳細を解説します。
組織で重要な役割を担っている以下のような労働者は、とくに退職を引き止められやすくなります。
市場に人材が少なく、すぐに代替が見つからない人材ほど、会社は逃したくありません。
円満な退職を実現するには、引継ぎや根回しが大切です。
退職理由や今後のキャリアプランが曖昧だと「退職意思が固まっていない」と判断され、引き止めに遭いやすくなります。
議論や交渉を重ねれば意見が変わる可能性もあると見て、さまざまな提案をされるでしょう。
退職を通知する際は、自分の強みとなるスキルや経験を洗い出し、具体的な展望を描くことが大切です。
自己分析を通じて明確な意思が固まれば、会社の引き止めに対しても毅然と対応できます。
勤務時間や給与、労働環境などの待遇面を理由として伝えると、条件の改善を交渉される可能性があります。
休暇の調整や残業免除、昇給などが典型例です。
本当に待遇面が退職理由であれば、正直に伝えて改善の可能性にかけてもよいでしょう。
しかし、待遇面以外に不満がある場合や、現状が将来的なビジョンとマッチしていない場合は、他の理由を述べるのが得策です。
組織で良好な人間関係を構築している方は、上司だけでなく同僚からも引き止められやすくなります。
チームワークが重要な部門では、協調性や適応力、コミュニケーション能力のある人材が重宝されるためです。
キャリアビジョンを実現するために退職する場合、情に訴えるような引き止めを受けても冷静に対処しましょう。
「将来のための選択である」ことを真摯に伝えれば、人間関係は退職後も維持できる。
入社してから短期間で退職する場合、会社はとくに引き止めを強める傾向にあります。
費やした採用・育成コストに見合った見返りを回収できておらず、時間と費用が無駄になるためです。
勤続年数が短い場合は、配置転換や働き方の改善など、さまざまな提案を受ける可能性があります。
提案を受けても意思が変わらなければ、遠慮せずに毅然と対応することが大切です。
無用なトラブルを避けるためにも、周囲に感謝の意を伝えつつ、十分な時間をかけて引継ぎを行いましょう。
退職の意思を伝えても、会社側がしつこく食い下がる場合は、毅然とした対応が求められます。
有効な対処法の具体例は、以下のとおりです。
詳細を見ていきましょう。
まずは、ポジティブかつ具体的な退職理由を伝えることが大切です。
以下のように、上司も納得せざるを得ない理由があれば、しつこい引き止めを受けにくくなります。
上司が「退職は認めない」「聞いていない」と強硬な姿勢を示す場合は、書面もあわせて提出しましょう。
内容証明郵便や配達証明郵便を利用すれば、会社が受け取ったことを証明できます。
退職後も業務が滞りなく進むよう、引継ぎに尽力する意思を示すましょう。
会社側の不安を軽減できるため、無用な引き止めを防ぎやすくなります。
できる限り早期に退職したい場合は、以下のポイントを押さえて引継ぎ書類を作成すると効果的です。
丁寧な引継ぎを行うことで、円満な退職を実現でき、転職後も構築した人脈を維持しやすくなります。
関連記事:退職代行を使えば引継ぎしないで辞められる?リスク回避の方法を解説
退職を伝えるまえに、内定をもらっておくのも効果的です。
転職先への入社日が決まっていれば、退職日を先延ばしされる心配がありません。
退職後の進路が明確化していると、精神的な面でも引き止めを振り切りやすくなります。
希望を受け入れてもらえないときは、在職しながら着々と転職活動を進めましょう。
退職代行でスムーズに退職できます。
交渉権限のある業者が間に立てば、会社は誠実に対応せざるを得ないためです。
退職代行の運営元は以下の3種類があり、それぞれ法的に認められている業務範囲が異なります。
| 業務範囲 | 民間企業 | 労働組合 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 退職意思の伝達 | ○ | ○ | ○ |
| 退職日の調整・話し合い | × | ○ | ○ |
| 有給消化の交渉 | × | ○ | ○ |
| 未払い賃金の支払い要求 | × | ○ | ○ |
| 損害賠償請求 | × | × | ○ |
| 訴訟代理 | × | × | ○ |
民間企業が運営する退職代行は、労働者の退職意思を単に伝えることしかできません。
会社が労働者の希望を受け入れてくれる場合は問題ありませんが、交渉が必要になると打つ手がなくなります。
しつこい引き止めを受けている状況であれば、労働組合や弁護士による代行を選ぶましょう。
関連記事:退職代行を利用すると即日退職できる?リスクやメリットについて解説
退職の引き止めを振り切るときは、無用なトラブルを避ける意味でも以下の点に注意しましょう。
それぞれ解説します。
退職を伝えるタイミングは慎重に検討しましょう。
以下のような期間に申し出ると、強い引き止めやトラブルにつながりやすくなります。
ただし、退職を急ぐやむを得ない事情があるときは、無理に会社の都合を優先する必要はありません。
会社側が退職の必要性を理解できるよう、丁寧な説明や引継ぎを心がければ、無用なトラブルの防止につながります。
退職をしつこく引き止められると、思わず感情的に反発してしまうこともあるでしょう。
しかし、スムーズに退職したい場合は、冷静に対処すべきです。
感情的な人は、相手に「説得の余地がある」「論破できそう」という印象を与えます。
また、余計な言動によって会社との関係性がこじれると、ますます円満な退職が遠のきます。
退職が一向に受け入れられない場合は、以下の手段も検討しましょう。
冷静な判断ができなくなったら、中立な立場の第三者へ相談してみることをおすすめします。
労務管理に課題がある会社の場合は、退職時に十分な条件交渉を行う必要があります。
約束事項を明確にしておかないと、労働者の権利を行使できず、不利益を被るおそれがあるためです。
以下の項目は、とくに合意内容を明確化しておきましょう。
未払い賃金や退職金は退職後も請求できますが、有給休暇は退職と同時に取得権利が消滅します。
会社が話し合いを拒否する場合は、労働組合や弁護士が運営する退職代行に交渉を依頼することも1つの選択肢です。
会社にとって失ったときの損失が大きい人材ほど、強い引き止めに遭う可能性が高くなります。
違法性の高い引き止めを防ぐには、十分な準備時間を設けることが有効です。
すでにしつこい引き止めに遭っている方は、第三者を間に挟むことも検討しましょう。
交渉権限のある退職代行業者を利用することで、円満かつ希望どおりの退職を実現しやすくなります。
退職代行ガーディアンは、東京都労働委員会認証の合同労働組合が運営するサービスです。
依頼者様の状況や意向をふまえ、団体交渉権を行使して円満退職へと導きます。
強引な引き止めに遭っている方は、お気軽に無料LINEでご相談ください。
この記事の監修者
長谷川 義人
東京労働経済組合
労働組合代表
プロフィール
高校を3ヶ月で中退しフリーターとなる。その後、20歳で定時制高校に通い25歳で定時制大学を卒業。
Tech系ITベンチャー企業にてBtoB営業からキャリアをスタートし、独立して代表として経営まで幅広く経験。
現在は「令和ならではの労働問題解決」に取り組むため、労働組合法人東京労働経済組合の代表に就任。
適法運営を徹底する退職代行サービス「退職代行ガーディアン」を運営し、日本の退職問題の改善と人材の最適配置を支える新たな社会インフラの確立に取り組む。
違法な退職代行が横行する業界の健全化にも力を入れており、労働者が安心して「次の一歩」を踏み出せる社会の実現を目指している。